「Windows 11にアップデートしたら、昨日まで当たり前に使えていたはずの共有フォルダやNASに、突然アクセスできなくなった!」 「ネットワークに他のPCが表示されない…」 「エラーが出て、業務に必要なファイルが開けない!」
もし今、あなたがこんな状況で頭を抱えているなら、ご安心ください。そのトラブル、多くの場合、Windows 11のセキュリティ設定の変更が原因であり、正しい手順で対処すれば解決できます。
最近、Windows 10のサポートが切れ、急遽Windows11に入れ替える人が増え、直後から、まさに「アップデートしたらNASに繋がらない!」「経理の共有フォルダが開けない!」といった問い合わせを沢山受けてきました。
この記事では、私が現場で実際にトラブルを解決してきた経験に基づき、Windows 11の共有フォルダトラブルで「まず確認すべきこと」から「具体的な設定変更手順」、「潜在的なセキュリティリスク」まで、試すべき優先順位に沿って分かりやすく解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたを悩ませていたトラブルの原因が特定でき、安全にファイルへアクセスできる状態を取り戻せるはずです。
なぜ? Windows11で共有フォルダが使えなくなる主な原因
Windows 10までは問題なかったのに、なぜ11にした途端アクセスできなくなるのでしょうか? 主な原因は以下の3つです。
原因1: セキュリティ強化による「SMB 1.0」の標準無効化
これが最も多く、特に古いNASや複合機を使っている場合に直面する原因です。
- SMB (Server Message Block) とは: Windowsのネットワークでファイル共有などを行うための通信ルール(プロトコル)です。
- SMB 1.0 とは: その初代バージョン(1990年代)ですが、セキュリティ面に重大な脆弱性(欠陥)が見つかっています。過去に世界中で猛威を振るったランサムウェア(身代金要求型ウイルス)「WannaCry」も、この脆弱性を悪用したことで知られています。
- Windows 11 の対応: Microsoftはセキュリティを最重要視し、Windows 11(およびWindows 10の途中から)では、この危険な「SMB 1.0」を標準で「無効」にしました。
結果として、古いNASやWindows 7/XP時代のPCなど、「SMB 1.0」でしか通信できない機器がネットワークから「見えない」「アクセスできない」状態になってしまったのです。
原因2: ネットワークプロファイルが「パブリック」になっている
Windowsには、接続するネットワークの安全性を判断する「プロファイル」設定があります。
- プライベート ネットワーク: 自宅や会社の信頼できるネットワーク。ファイル共有やネットワーク検出が許可されます。
- パブリック ネットワーク: カフェや空港などの公共Wi-Fi。第三者からPCを隠すため、ファイル共有やネットワーク検出が「無効」になります。
Windows 11へのアップデート時や、ネットワークに再接続した際、この設定が意図せず「パブリック」に切り替わってしまい、共有フォルダが見えなくなるケースがあります。
原因3: 必要なネットワークサービスが停止している
他のPCをネットワーク上で見つけたり、共有機能を提供したりするための「サービス」(Windowsの裏側で動いているプログラム)が、何らかの理由で停止している場合もあります。
【Step by Step】共有フォルダにアクセスできない時の対処法
原因が分かったところで、いよいよ対処法です。セキュリティリスクが低い、簡単なものから順番に試していきましょう。
Step 1: まず確認!ネットワーク設定の基本(最優先)
多くの場合、ここの設定を見直すだけであっさり解決します。
ネットワークプロファイルを「プライベート」に変更する
これが「パブリック」になっていると、何も始まりません。
- 「スタート」ボタンを右クリックし、「設定」を選びます。
- 左側のメニューから「ネットワークとインターネット」を選びます。
- 現在接続しているネットワーク(Wi-Fiまたはイーサネット)の「プロパティ」をクリックします。
- 「ネットワーク プロファイルの種類」で、「プライベート」にチェックが入っていることを確認します。「パブリック」になっていたら、必ず「プライベート」に変更してください。
ネットワーク検出とファイル共有が有効か確認する
次に、「プライベート」ネットワークの設定が正しく共有を許可しているか確認します。
- 「設定」 > 「ネットワークとインターネット」を開きます。
- 一番下にある「ネットワークの詳細設定」をクリックします。
- 「共有の詳細設定」をクリックします。
- 「プライベート ネットワーク」の項目が展開されていることを確認し、ネットワーク探索とファイルとプリンターの共有が「オン」になっているか確認します。
このStep 1を実行し、PCを再起動するだけで解決するケースが非常に多いです。 まずはここを確認してください。
Step 2: サービスの状態を確認・再起動する
Step 1で解決しない場合、ネットワーク関連のサービスが眠っていないか確認します。
- Windowsキー + Rキーを同時に押し、「ファイル名を指定して実行」ウィンドウを開きます。
- services.msc と入力し、Enterキーを押します。
- 「サービス」の一覧が表示されます。以下のサービスを探し、状態を確認します。
- Function Discovery Provider Host
- Function Discovery Resource Publication
- SSDP Discovery
- UPnP Device Host
- これらの「状態」が「実行中」になっていない場合、そのサービスを右クリックして「開始」を選びます。
- また、「スタートアップの種類」が「自動」または「自動(遅延開始)」になっているか確認し、異なれば右クリック > 「プロパティ」から変更してください。
Step 3: 資格情報を確認・再登録する
「アクセスしようとするとエラーが出る」「パスワードを求められるが、正しいはずなのに通らない」という場合は、Windowsが古い接続情報(資格情報)を記憶してしまっている可能性があります。
- 「スタート」メニューで「コントロール パネル」と検索し、開きます。
- 「ユーザー アカウント」 > 「資格情報マネージャー」の順にクリックします。
- 「Windows 資格情報」をクリックします。
- 一覧の中に、アクセスしたいNASやサーバーPCの名前(IPアドレスなど)があれば、それをクリックして展開し、「削除」を選びます。
- PCを再起動し、再度共有フォルダへのアクセスを試みてください。新しいパスワードの入力を求められるはずです。
Step 4: (非推奨・最終手段)SMB 1.0を一時的に有効化する
【警告】この操作は、前述の通り重大なセキュリティリスクを伴います。実行する前に、必ず以下の説明を読んでください。
【体験談】古いNASや複合機で多発するSMB 1.0問題
私がサポートしているクライアント先でも、この問題は頻発しました。特に、導入から5年以上経過したNAS(ネットワーク接続ストレージ)や、旧式の複合機(スキャンデータを共有フォルダに保存する機能)が、Windows 11から一斉に見えなくなったのです。
これらは、機器側が「SMB 1.0」にしか対応していないことが原因でした。 このような場合、根本的な解決策は「機器の買い替え」または「NASのファームウェアをアップデートしてSMB 2.0以上に対応させる」ことです。
しかし、業務が停止している緊急時や、すぐに買い替え予算が組めない場合もあります。その場合のみ、リスクを承知の上で、Windows 11側の「SMB 1.0」を一時的に有効化して凌ぐことになります。
SMB 1.0を有効化する具体的な手順
- 「スタート」メニューで「Windows の機能」と検索し、「Windows の機能の有効化または無効化」を選択します。
- 一覧をスクロールし、「SMB 1.0/CIFS ファイル共有のサポート」を探します。
- この項目の「+」をクリックして展開します。
- 「SMB 1.0/CIFS クライアント」にチェックを入れます。 (※サーバーとして動作させる必要がなければ、「サーバー」や「自動削除」にチェックを入れる必要はありません)
- 「OK」をクリックすると、必要なファイルがインストールされ、PCの再起動を求められます。
- 再起動後、共有フォルダにアクセスできるか確認してください。
警告: SMB 1.0を有効化する重大なセキュリティリスクとは?
SMB 1.0を有効にすることは、例えるなら「玄関の鍵(WannaCryなどが侵入した古い鍵穴)をわざわざ復活させて、開けっ放しにする」ような行為です。
万が一、社内ネットワークにウイルスが侵入した場合、SMB 1.0の脆弱性を突かれて、あなたのPCがランサムウェアに感染し、そこから他のPCやサーバーへ被害が拡大する恐れが飛躍的に高まります。
※参考: MicrosoftもSMB 1.0の使用停止を強く推奨しています。(Microsoft公式ドキュメントより)
この方法で一時的に解決した場合でも、必ず恒久的な対策(機器のアップデートや買い替え)を計画してください。
【根本解決】SMB 1.0に頼らない安全なファイル共有環境とは
最も理想的なのは、Windows 11(SMB 2.0/3.0)と、アクセス先の機器(NAS、サーバー)が、安全なプロトコルで通信できることです。
NASやサーバー側の設定を見直す(SMB 2.0/3.0への対応)
もしあなたがNASやサーバーの管理者でもある場合、そちらの設定を確認してください。
- NASの場合: 管理画面にログインし、「ファイルサービス」や「ネットワーク設定」などの項目に「SMB設定」がないか探します。もし「SMB 1.0のみ許可」などになっていたら、「SMB 2.0以上を許可」する設定に変更します。また、メーカーのサポートサイトを確認し、最新のファームウェア(機器を動かす基本ソフト)が公開されていないか確認し、あればアップデートしてください。
- Windows Serverの場合: 同様にSMB 2.0以上が有効になっているか確認します。
それでも解決しない場合や不安な時は
「色々試したが解決しない」「設定をいじるのが怖い」「セキュリティリスクと言われても、ウチの環境がどうなっているか分からない」――。
中小企業では、IT専門の担当者がいないことも多く、このようなトラブル対応に貴重な業務時間を奪われがちです。
Windows11の共有トラブルは設定確認とセキュリティ意識が鍵
Windows 11で共有フォルダにアクセスできなくなった場合の対処法を、優先順位の高い順にまとめます。
- ネットワークプロファイルの確認: 「パブリック」になっていたら「プライベート」に変更する。(最優先)
- 共有設定の確認: 「ネットワーク探索」「ファイルとプリンターの共有」をオンにする。
- サービスの確認: 「Function Discovery」関連のサービスが実行中か確認する。
- 資格情報の削除: 古い接続情報を「資格情報マネージャー」から削除してみる。
- (最終手段)SMB 1.0の有効化: 古い機器が原因の場合。重大なセキュリティリスクを理解した上で、一時的な対処として「クライアント」のみ有効化する。
多くのケースは1か2で解決しますが、5で解決した場合は、早急な根本対策(機器の入れ替えなど)を強く推奨します。